コロナに負けない「計算科学クラスター演習」・2020年度活動紹介 最新の研究成果やプレスリリースの内容を紹介しています。

コロナに負けない「計算科学クラスター演習」・2020年度活動紹介

新型コロナウィルス感染拡大のため、昨年度まで対面で行ってきた演習科目も2020年度春学期はオンラインでの実施を余儀なくされました。その中の一科目「計算科学クラスター演習」は、演習の実施方法に対する新しい可能性を感じさせるものでした。活動報告として、ここに紹介します。

この演習科目は理工学部が2007年に三学部制に発展的改組された際、物理学・化学・工学そして生命科学までをも含んだ諸領域において、「計算科学」という言葉を基底に学生諸君と各専攻の相互理解と融合を目的として、当時は「先進融合クラスター演習」という科目の一テーマ(計算物理化学クラスター演習)として設置されたものです。専攻の垣根を越えた演習実施は容易ではありませんが、試行錯誤しながらこれを実施してきた本テーマのみが2013年以降も存続し、名称も「計算物理化学」から「計算科学」に変え、当初の精神を受け継いでこれまで活動を続けてきました。現在は、量子化学・量子材料学・生物物理学・複雑系科学の分野で、中井(化学)・武田(電生)・渡邉(ナノ理工)・高野(物理)・山崎(物理)が担当しています。

本演習ではそれぞれの研究室で学んだ学生らが、自らの研究分野の計算手法とその根底にある考え方を他分野(他研究室)の学生と共有するための課題を考え、例年、コンピュータールームで実際にプログラミングとデータ解析を行ってきました。各研究室が室員を総動員して真摯に取り組むため、7月末に実施する研究交流会では参加者は全体で50名以上になることもあります。互いに異分野の初歩とその分野の深遠さを含め、学生諸君と我々教員とが専攻を越えて共有できる機会となっています。とりわけ本演習履修者にとっては、他専攻学生に直接、課題の初歩から内容を教授する場となっており、自らの研究の深化に加え、プレゼンテーション能力の向上と、何よりも真摯に取り組む姿勢を自らに課すという非常に価値の高い教育・研究経験の機会になっています。例年は、一連の演習の最後のまとめとして全体演習で学生らの演習を総括し、その後、参加者全員による研究交流会(例年は63号館情報ギャラリーでポスター発表)、それに続いて懇親会を行い、本計算科学クラスター演習を終えております(写真は、2018年度の研究交流会と全体集合写真)。

今年度はコロナ禍により写真のように集まることもできず、演習実施自体が大いに危ぶまれましたが、この状況を学生の自由な発想が生かせるチャンスであると捉え、新たな演習の方法を教員と学生が一体となって探ることにしました。実際、Waseda moodle を利用したオンデマンド動画配信により課題を出題し(動画は学生が作成)、Google collaboratory を用いて課題を実施し、最後の課題総括は約40名が参加してzoomによる生中継を行いました。特に、Google collaboratory を用いることは当初から想定していたものではなく、課題に取り組む中で学生が自主的に取り入れたもので、学生の自ら切り拓いていく能力の高さを実感し、学生の意見を取り入れていくことの重要性を認識した瞬間でもありました。

例年、実施内容は各研究室の特色を生かしたもので、今年度は、強化学習のプログラミング・感染症の数理モデリング、実データとの比較・フロンティア軌道論の理解・グラフェンの電子構造解析・メタダイナミクスによる多谷エネルギー地形の高速サンプリングと、多岐に渡るものでした。特に、政府の新型コロナクラスター班の数理解析を最も基本支配方程式に立ち戻り理解し、さらに各国の感染状況を把握するという今日的課題が新鮮で深く印象に残っています。各研究室の演習を介して課題をまとめ上げた学生諸君の努力に敬意を表する次第です。秋学期の授業は一部の科目で対面を取り入れた体勢になりますが、これからも学生と教員が一体となって、新しい授業のあり方を模索していくことが重要であると感じています。

報告者:山崎(物理)