井村 考平 早稲田大学先進理工学部・研究科に所属する教員の研究内容を紹介しています。

化学・生命化学科/化学・生命化学専攻

井村 考平准教授

Imura Kohei

略歴 2000年大阪大学大学院理学研究科修了、博士(理学)。岡崎国立研究機構(現、大学共同利用機関法人自然科学研究機構)助手、助教を経て2009年から現職。JSTさきがけ研究者兼務。
主な担当科目 物理化学C/光物理化学/化学C/光物理化学特論(大学院)
私たちは「光」を様々に活用しています。明かりとしては勿論のこと、例えば、太陽光発電はクリーンエネルギーとして注目されています。また、光通信の普及によって動画や音楽などの大容量データ送受信が実現しました。この光を使ってナノメートルサイズ(1ナノメートルは1ミリメートルの1/100万)の世界で起こる様々な化学現象を明らかにしようとしているのが、化学・生命化学科の井村考平准教授です。

化学反応を理解する

高校の「化学」という科目は、どちらかというと暗記科目のように扱われがちです。化学といえば化学反応に尽きるのですが「化学反応が何故起こるのか」という理論的な説明が高校の段階では難しく、例えば2H2+O2→2H2Oという「反応式」を機械的に覚えるしかないためではないでしょうか。当時、私はそれにめげることなく「分からないことが沢山あるということは、自分が明らかにできることも沢山あるに違いない」と興味を持ち、化学科に進学しました。大学に入って知識が増え、ある程度の理論的根拠を理解できるようになりましたが、「分子Aと分子Bを一つずつ衝突させた時の反応」が分からないと、本当に化学反応を理解したことにならないのではないかと思い、これを研究テーマに選びました。

世界にひとつしかない装置をつくりあげる

学部生で入ったのは、化学反応における分子の配向・立体効果を調べている研究室でした。つまり、分子の向きや反応する方向によってその反応性能が変わるのではないか、ということを調べていました。

最初は、励起アルゴン原子と窒素分子の衝突反応を観察していましたが、一年程して修士課程に進学する頃には「二つの分子の配向をそれぞれ制御して衝突させる」という状況を作るのが難しいということが分かり、分子が初めからある程度結合している「クラスター」を実験材料として用いることにしました。衝突前の制御が難しければ、最初に反応の中間体を創りだし,それに光を与えて分離される過程を見れば良いと考えたわけです。クラスターはバラバラな向きに分子が結合しており、欲しい配向の分子だけを取り分ける必要がありましたので、研究室の分子配向制御装置を駆使し、欲しい反応を得られるようにしました。途中で海外の研究機関への研究留学も経験しつつ、「クラスターの構造と反応性」で博士号を取得しました。

極端な話、学生の頃の研究は世界中のどこにもない装置を自作して測定結果が得られれば「世界初」としてひとつの成果になるわけです。「化学」のイメージとは程遠いかもしれませんが、私も、実験装置の図面を引くところから始め、装置と測定回路を組み、さらに測定プログラムを自作して先ほどお話しした成果に到達しましたし、この姿勢は現在も継続しています。この経験のせいか、研究室の学生たちにも「何でもできる研究者になれ」と言っています。(化学)合成から測定までの全工程を一人で進めることになりますので、実験進度は非常にゆっくりになってしまう場合もあります。ですが、一通りの作業を経験した人間は研究理解の深みが増しますし実験の幅も広がります。試行錯誤して実験を遂行した経験は実社会に出ても応用が利くでしょう。

図1 分子Aと分子Bが反応する際のイメージ図:分子Aの近づく向きによって反応の仕方が変わる?

気体反応から液体・固体の反応観察への転換

現在の研究テーマである光を用いた計測(分光法や光学顕微鏡観察)に取り組みはじめたのは、博士号取得後になります。学生の頃の対象は「気体、もっというと1個2個の原子・分子」でしたので、少し違うもの(複雑なもの)=液体や固体も相手にしてみたいと思い、分子研(大学共同利用機関自然科学研究機構分子科学研究所)で新たな研究生活を始めることになりました。実は、少数の分子の反応はモデルを比較的単純にすることで説明できるのですが、液体や固体中の反応は、多数の分子の衝突や相互作用を考える必要がありますし、また物質によってそれらの特徴が大きく異なるので、理論的解明・実験での実証は共に困難を極めます。分子研での研究開始当初はその違いに戸惑うばかりでしたが、3年目を越える頃から次第に学生時代の知識も活用できる、少数の分子の反応を良く知っている自分だからこそ持てる視点があるという意識が強まり、自らの研究を組み立てていくことができるようになっていきました。

貴金属ナノ粒子の不思議を“観”る

2009年度から現職となりましたが、昨年度発見した成果(大学プレスリリース「ナノの覗き孔は、塞ぐと光がよく通る!?貴金属ナノ粒子の特異な光学的性質」、JST Science News「ナノの世界でのみ観測される貴金属粒子の新しい現象を発見」)も先の意識の中から得られたものです。

貴金属の代表格である金(きん)は何色?―このように聞かれたら、おそらく多くの方々が「金色」と答えるでしょう。しかし、ナノサイズ(1ナノメートルは1ミリメートルの1/100万)まで微粒子化した金を混ぜた液体や固体は「赤色」に見えます(例えば、ステンドグラスの赤色は、この金微粒子を混ぜたガラスで表現されています)。このような現象を示す原因は貴金属ナノ粒子表面に現れるプラズモンという電子状態によるものですが、プラズモンを持つ物質の機能を光(エネルギー)によって制御したいと考えて研究を進めています。新たな光反応・光計測方法を編み出しながら物質機能に対する理解を深め、最終的には新たな分子の反応原理を見出したいと考えています。これは、振り返れば、最初にお話しした高校生~学部生の頃の「分子一つずつを衝突させたときの反応を知りたい」という夢がかなうということになるかもしれませんね。

図2 近接場光学顕微鏡(左)と金ナノロッドの観察例(右)

研究室ホームページ

※所属・役職・研究内容はインタビュー当時のものです。

先進トップランナーTOPに戻る