関根 泰 早稲田大学先進理工学部・研究科に所属する教員の研究内容を紹介しています。

応用化学科/応用化学専攻

関根 泰教授

Sekine Yasushi

略歴 1998年 東京大学大学院工学系研究科応用化学専攻 助手
2001年 早稲田大学理工学部応用化学科 助手
2003年 早稲田大学ナノ理工学研究機構 講師
2006年 早稲田大学理工学術院応用化学科 講師
2007年 早稲田大学理工学術院応用化学科 准教授
2011年 JSTフェロー(研究開発戦略センター・環境エネルギーユニットフェロー)(兼務・出向2011/4-)
2012年より現職
主な担当科目 物理化学A、触媒化学、工業化学

非在来型の触媒反応とは

世の化学工業の9割が触媒反応を利用しているといわれていますが、その触媒反応というのは大規模な工場で高温をかけて反応させており、膨大なエネルギーが必要とされています。高温をかけずに、低い温度で作動できる触媒プロセスがあればエネルギーの消費を減らすことが可能になりますから、より手軽に、効率よく触媒を使うことが出来るようになります。京浜工業地帯などの大規模工場では500度以上の高温に加熱していますが、私たちは触媒性能を上げて100℃といった低温でも作動可能な触媒システムを研究開発しています。一例として、触媒層に電場を加えることによって、低い温度での反応に成功しました。前例のないプロセスですから、「非在来型=今までにない」触媒プロセスと呼んでいます。

空間と時間の制約を超えるために

閉じた殻の地球という系の永続性を考える上で、再生可能エネルギーの利用拡大が重要です。再生可能エネルギーというと、太陽光、太陽熱、風力、それからバイオマス、それに海洋系のものでは潮力や波力、海洋温度差などが挙げられます。これらは全て太陽の恵みをエネルギーとして使うという点で共通していますが、一方で空間と時間に制約を受けるという問題があります。

空間の制約というのは、太陽光のエネルギーを利用するのに適した土地は北海道の十勝や、南九州などの広大で天気がよく日照時間の長いところであり、風力の場合も洋上、あるいは陸地ならば北海道や沖縄のような風況の良い場所が必要です。ですから、例えば震災復興のために仙台でやろうと言っても、日照時間が短いので厳しい。どこでも適地というわけではないのです。

時間の制約というのは、当然のことですが、例えば太陽光は太陽が出ていないと使えないし、風力は朝と夕方は沿岸の場合、凪なので出力が低下します。我々がエネルギーを使う時間はある程度集中していて、夏の昼に暑いからクーラーをつけ、朝夕に煮炊きをし、夜に風呂に入るといったピークがあるので、その時間帯にエネルギーを供給することが不可欠ですが、現状では再生可能エネルギーを効率よく貯めて運んで使う手段がありません。そこで、低温で高性能な触媒反応でエネルギーを物質に変換し、貯めて運んで使うことを考えています。

水素エネルギーとして注目を浴びているアンモニアを例にとって説明をします。アンモニア(NH3)というのはご存知の通り、窒素(N)と水素(H)で出来ていて、燃焼すると窒素と水になるので、空気と水と再生可能エネルギーからアンモニアを作れば、再生可能なサイクルが成り立ちます。現状のアンモニアはほとんどが肥料として使われ、その場合には大規模な工場で高温・高圧で作られています。これでは石油由来のエネルギーを多量に使ってしまいますので、無駄が多く、環境への影響も大きいです。そこで今後は低温で、かつ空気と水と再生可能エネルギーからアンモニアを作る技術が望まれています。アンモニアはまた自動車や発電の燃料など様々なエネルギーとなり得ることが知られていますが、例えば遠隔地にある太陽光や風力発電所とリンクして、触媒反応器を設置し、再生可能エネルギーと空気と水からアンモニアを作れれば、「再生可能エネルギーを貯蔵可能な形にして運び、エネルギーが欲しいときに使う」ということが可能になります。作れる時につくって貯めておき、必要な場所にアンモニアを運んで使えば、空間と時間の位相シフトが可能になります。

アンモニアにフォーカスした話をしましたが、天然ガス、バイオマスといったエネルギーについてもどのように「使いやすい」形にしていくかということを追求し、それら反応を低温で高効率に進められるような化学体系を確立したいと思っています。

触媒表面で酸素が出入りする場を創ることで、反応を促進

電場をかけるということ以外にも触媒自体を高性能化する研究も進めています。従来型の触媒というのは表面に物質が吸着し、反応後に触媒から離れるというかたちが主ですが、私たちは触媒表面で酸素が出入りすることを生かした系について深い検討を進めています。

酸素が表面で出入りすることが出来るようにしてあげることで、従来のくっついて離れるだけの反応と比べると、圧倒的に性能を高くすることができます。触媒の表面で酸素が待ち構えていて、表面にやってきた物質にアタックするように反応させる形態のほうが、より高い性能を出すことが出来ます。酸素が動きやすい場所を、無機化学の知見を総動員して作り出すことが重要です。酸素の動きを良くするために、酸化物の構造をゆがませるような合成法を用います。このように酸化物の構造を変えたり、触媒に電場をかけたりという方法で、エネルギーの分野、あるいは環境の分野において、低温で高効率に反応を進ませるということが、私たちの研究の柱です。

どうあるべきか、を追求

私はスティーブ・ジョブズをすごく尊敬しているのですが、彼のインターフェースの考え方にものすごく共鳴しました。「マウスはボタン一個がいい、フロッピーディスクはドライブ一個がいい、2個あると人間は間違ってしまう」と。この考え方は、ジョブズの理念として貫かれ、そこから、あのシンプルなインターフェースを考案し、今日のAppleがあり、世界中を席巻しています。ジョブズという人はイノベーターとして知られていますが、その実、やっていることはシンプルにこだわり、「どうあるべきか」ということを徹底的に考えた人だと思います。

翻って、科学の分野で未来のエネルギーとはどうあるべきか、ということを考えていった結果が、エネルギーを効率よく使うための化学と言う方向性です。現在主流の大工場を使った化学のように、大規模な施設で高温高圧で反応させて、分離・蒸留を行うという複雑なサイクルではなく、できるだけシンプルに無駄を省いた形で実現したいと思っています。エネルギーは暮らしのインターフェースですから、シンプルで無駄のないものにしていきたい、それも誰かがやっていることを私がやっても仕方ないですから、誰もやったことのない方法で実現したいですね。

研究室ホームページ

※所属・役職・研究内容はインタビュー当時のものです。

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